2018.05.06(Sun):藤花鬼譚
皆様こんばんは。
Fleugaria脚本担当の氷上綺沙羅です。
予告通りではありますが、2日続けて私が出てくるなんて初めてではないでしょうか。

さて、本日は「藤花鬼譚」後日譚その2となります。
今回はあの2人のその後です。甘いです。
ボイスドラマ本編の後の話ですので、本編最後の展開のネタバレを含みます。
是非CDをお聞きになった後お楽しみください。


それでは、続きからどうぞ。

【More...】

「藤花鬼譚」後日譚 その2


トントントン。ぐつぐつぐつ。
山の中にある木小屋。
その中で、慣れた手つきで包丁を操る男の姿。
鍋は煮立っており、柔らかな匂いが部屋に漂っている。

「…んっ……紫藤さん?」

布団から声をかけられ、男――紫藤は振り返った。

「椛、起きたのか」
「…うん、目が覚めた。……こほっ」

紫藤は一度手を止めると、布団から身を起こそうとする椛に歩み寄った。

「無理はするな。まだ治りきっていないのだからな」
「色々迷惑かけてごめんなさい…」
「気にするな。ただの風邪だ。直に良くなる。少し待っていろ」

それだけ言うと紫藤は台所へ戻り、出来たばかりの粥をよそって持ってきた。

「咳によく効く薬草を入れてある。食べられるか?」
「わざわざありがとうございます」
「ほら」
「え?」

紫藤の手には匙があり、粥をすくってそのまま椛の前に差し出された。
俗に言う“あーん”である。
椛は顔をさっと赤く染め、紫藤を見つめ返した。

「?なんだ?」
「あ、あの、自分で食べられますからっ!!」
「そうか?恋人同士であれば、このように食べさせるのがよい看病だと聞いたのだが」
「~~っ!!だからその、紫藤さんの謎知識はどこから仕入れてるんですか!?」
「昔商人に聞いたのだが。何か間違っているのか?」
「間違っているというか、別にそういう決まりではないというか、恥ずかしいと言うか…」

椛はそうごにょごにょ呟きながら、紫藤の手から匙を奪い自分で食べ始めた。

「どうだ?」
「……お、美味しいです…。あの、そんなに見つめないで下さい」
「ああ、すまない。……それより椛。その敬語、そろそろなんとかならぬのか」
「うっ。ごめんなさい」
「いや、謝る必要はない。その、単に我が同じように接してほしいだけだ」
「?同じように?」
「あぁ。その、先日、藤倉蒼珠達と話したのだろう?」
「え、ああ、この間の満月の夜に」
「その時も思ったが、知花や朝陽と話すときは自然体だと思ってた。我の前でも同じように接してほしいと…」
「……それって…あの、つまり、嫉妬?」
「!そう、か…これが嫉妬、というものか。―――嫌、か?」
「ううん、嬉しい」
「そうか」

それだけ呟くと、恥ずかしさからお互いそっと目をそらす。
椛が粥を食べる音だけがそっと部屋に響いていた。
部屋の外は闇色、今夜は風もなく静かである。

「それにしてもこの間の術、かなり無理をしたのだろう?風邪も恐らくはそのせいではないか?」
「ううっ確かに。上手くいっただけ良かったって感じだったからなぁ…」
「ふっ。まだ二月も経たぬが、落ち着かなかったからな。これを機にゆっくり休むといい」
「そう、だね。あ、じゃあこの機会に色々聞きたい事聞いてもいいですか?」
「我に答えられる事なら」
「鬼って、確か人の倍の寿命なんですよね?紫藤さん、今いくつなんですか?」
「――聞いても嫌いにならぬか?」
「え?はい」
「――――――92、だ」
「え、えぇぇぇ!?!?そ、そんなに若い見た目なのに!?!?」
「鬼は20で一度見た目の成長が止まるのだ!!」
「えっ、嘘。じゃあこれからは私1人が老いていくの?」
「違うっ!90ほどまでは止まるが、その後は人と同じように老いる!
 だからその、椛を1人にはしない。共に老いて、共に死す」
「っ!」

椛の不安に慌てて弁解した紫藤であったが、その言葉はまるでプロポーズのようで。
一生共にいるつもりで紫藤についてきた椛ではあったが、はっきりと将来を約束する言葉に赤面した。
思わず手で顔を隠し下を向くと、紫藤は何事かと顔を覗き込んだ。

「椛?どうした?聞いているか?」
「きっきき、聞いてるから…ちょっと今顔見ないで……」
「なぜだ?」
「何でもっ!もう………」

92年も生きてきた。それは紛れもない事実。
それでも、人との関わりを極力絶ってきたという紫藤はこういった事に疎い。
まだふた月と経たない生活であったが、事ある毎に椛はそれを実感していた。

深呼吸を繰り返し気持ちを落ち着かせると、顔を上げる。
そこには心配そうにしている紫藤の顔。
大丈夫何でもないと笑うと、匙を持ち直した。



「御馳走様でした」
「お粗末さまでした…だったか?」
「ふふっ。すごく食べやすかったです。すぐにでも治りそう」
「治るまでは無理はするなよ。椛はすぐに無理をしようとするからな」
「えー、そうですか?」
「自覚がないのか?この間も町の女に頼まれて、川まで探し物をしに行っただろう」
「ああ、かんざしですか?だって、旦那様にもらった大事な物だって言うから」
「全く。人に優しいのはいいが、無理はしすぎるなよ」
「はーい」
「まあ、そこが椛の良いところだが」
「っ!もう、ほんとそういう不意打ちやめてください…」
「?」
「紫藤さんこそ、少しはそういうの自覚してくださいよ。私の心臓が持ちませんっ!」
「そういうの、とはどういう事だ?」
「~~っ!何でもありませんっ!もう、初さんもどうしてこういうこと教えておいてくれなかったのよ…」
「???」
「あ、そうだ。紫藤さん、その、初さんの藤棚って、今もあるんですか?」
「初の藤棚か?ああ、今も残っている。というより、我が残している」
「じゃあ、定期的に行って…?」
「ああ、そうだ。そろそろ手入れに行かなくてはな。椛も一緒に行こう」
「一緒に行っていいんですか?」
「ああ。初の墓もある」
「本当に?私、初さんに挨拶させてもらおう」
「初も喜ぶと思う」
「ふふっ。楽しみにしていますね。…こほっ」
「夜も遅い、もう寝よう」
「紫藤さんは?」
「皿を片付けねばならぬ。先に寝ていろ」
「―――いなくならない、ですよね?」
「不安か?」
「―――――全部夢だったらどうしようって」
「…・・ふっ、ならばこうしよう。今宵は手をつないで我も横で寝るとしよう」
「えっでも…」
「気にするな。少しだけ待っていろ」

優しい顔で椛の頭を一度撫でると、紫藤は台所へ向かった。
最初は難しい顔をしてばかりだった紫藤も、ここ最近は笑ったり怒ったり色々な表情を見せてくれている。
それが嬉しくもあり、恥ずかしくもあり。
そんなことを考えながら布団の中に入っていると、片づけを終えた紫藤が戻ってきた。
離れたところに敷いてある自身の布団を椛の布団の隣に引いてくると、横になった。

「夢のよう、か。それは我の台詞だ」
「え?」
「今でも思うのだ。ほんの少し前まで我は1人で生きていた。
 それが、あの町で椛と知花に助けられ、今は椛と暮らしている。
 まるで夢のようだ。目が覚めたら、すべて気のせいで元通りになっているのではないか、と」
「紫藤さん…」
「何度も言っているが、もし椛が我のことが嫌になった時は遠慮せず元の暮らしに戻れ。
 我は鬼だ。どう言い繕うともそれは変わらぬ。椛には普通の暮らしをする権利がある」
「でもっ!」
「だが……だが、我は椛に傍に居て欲しい。もう元には戻りたくない、と思っている」
「私は、紫藤さんの傍を離れない。たとえ誰になんて言われても」
「ありがとう、椛。今宵は手をつないだまま眠ろう。そうすれば、明日目が覚めてもすぐに夢でないことが分かるだろう?」
「紫藤さんが不安なら、今日だけと言わず、明日も、明後日も」
「椛が不安なら、毎日そうしよう」
「……ふふっ」
「……ははっ」

明るい笑い声が2人分ひびく。
椛がそっと布団から手を伸ばすと、紫藤がその手を大事そうに握りこんだ。

「おやすみ、椛」
「おやすみなさい、紫藤さん」


長い間1人で生きてきた紫藤と、神術名家の娘として生きてきた椛。
これから先も少しずつ2人一緒の時間を刻んでいく。
そんな2人を見守るように、夜は静かに更けていった。



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