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2018.05.05(Sat):藤花鬼譚
皆様こんにちは。
Fleugaria脚本担当の氷上綺沙羅です。

先日のM3では多くの方に「藤花鬼譚」を手に取っていただきありがとうございました。
今回は、分量と大人の事情でボイスドラマに入れられなかった後日談、ならぬ後日譚を2つに分けてお送りいたします。
ボイスドラマ本編の後の話ですので、本編最後の展開のネタバレを含みます。
是非CDをお聞きになった後お楽しみください。


それでは、続きからどうぞ。
その2は明日公開いたします。
【More...】

「藤花鬼譚」後日譚 その1


椛と紫藤が町を去ってから1カ月近く経つ。
“椛が発見し調合した”薬により蒼珠が元気を取り戻したことに、町の人々、何より藤倉家の人々は大変喜んだ。
また、蒼珠より“椛は逃げた紫藤を追うため、またより良い薬を作るために町を出た”との説明がなされ、それに疑問を挟む者はいなかった。
藤倉家次期当主である蒼珠の病が癒えた事もあり、町は元の活気を取り戻していた。
――真実を知る一部の者を除いて。


「はあぁぁ……」
宿の玄関前の掃き掃除をしながら、思わず深いため息をつく知花。
あの日、椛を笑顔で送りだしたものの翌日は一日号泣した。
彼女にとっては、椛はただ1人の親友でありかけがえのない友人だったのだ。
1カ月が経つ今も、いつものように朝やってこない友を思っては深いため息をついていたのだった。

「相変わらず辛気臭いな、知花」

そこへやってきたのは、藤堂朝陽。
そういう彼もあれから1カ月、どこか浮かない表情を浮かべている。

「うるさいわね、朝陽。癖でつい毎朝うちに寄っちゃうあんたに言われたくないわよ。言っておくけど椛はいないわよ…うう…」
「自分で言いながら傷つくなよ…」

今までなら、朝掃除をしている知花のところへ椛がやってきて、そこに朝陽がきて3人で立ち話が日課だった。
何年も続いた習慣から急に1人いなくなり、ぬぐえない喪失感が2人を包んでいた。
とそこへ、声がかかった。

「ああ、よかった。2人ともここにいたね」
「「蒼珠さま!」」

2人が驚いた顔をして振り向いた先には、椛の兄にして藤倉家次期当主である蒼珠。

「おはようございます!ど、どうしてここへ?」
「椛から手紙が届いたんだ」
「手紙っ!?!?!?!?」

飛び付かんばかりの勢いで一歩踏み出した知花に苦笑しながら懐から手紙を取り出す蒼珠。
知花は受け取ると、慌てて中を開いた。




知花へ

お元気ですか?椛です。
…なんかこうやって改まって書くの照れるね。
少し落ち着いたのでこうして今手紙を書いています。

あれから、無事あの人とは会う事ができました。
今は一緒に別の町の近くにいます。
一緒に薬草術を学ばせてもらってる。まだまだ私の知らないことが一杯でとても勉強になります。
手紙と一緒に少しだけど薬も入れたから、町の人々に分けてあげて下さい。
知花の御両親がたしか腰が痛いって言ってたので、腰痛によくきく薬も入れました。
一時的な痛みどめにしかならないけど使ってね。

あの日、兄さまと知花が背中を押してくれたこと、感謝してる。
ありがとね。
すぐには会いに行けないけど、いつかまた会えるって信じてるから。
だから、それまで知花も身体には気をつけてね。

神術の修行も忘れず続けてるよ。
まだまだ苦手な事ばっかりだけど。
今度の満月の日、楽しみにしててね。


それじゃ、この辺で。
また手紙も送ります。

藤倉椛




「うぅぅ、椛ぃぃぃぃぃ~~~」

手紙を持ったまま涙を浮かべる知花。
蒼珠はその背中を優しく撫でた。

「ありがとう、知花ちゃん。それに、朝陽くんも。椛のこと、大切に想ってくれて」
「いえ、俺は別に…」
「ふふ、ごめんね?椛、全然朝陽くんのこと書いてなくて」
「いや、あの、それはその…別にそんなに気にしてなくもないというか…そんなこともないというか……」

しどろもどろになる朝陽は、一緒に手紙を読みながらまさにその事を気にしていた。

「そそ、それより蒼珠さま、“満月の日”って何ですか?」
「ああ、そうそう。それも伝えに来たんだった。神術の1つでね、満月の日の夜に互いの声を繋ぐ事が出来る術があるんだ」
「ぐすっ……声を……繋ぐ…?」
「そう、遠くにいる者同士でも話す事が出来るんだ」
「えっそれってつまり…」
「そう、椛と話が出来るんだよ」
「本当ですか!!??!あ、でもそれ、私達は神術使えないから…」
「大丈夫、術者…この場合は僕の近くに居る人は一緒に話が出来るよ」
「椛と…話…」
「もちろん、今まで試した事はないから上手くいくか分からない。出来てもそんなに長い時間は話せないと思う。
 でもね、僕は出来ると思ってるんだ。椛を信じてるからね」
「……私も信じます!楽しみにしていますね」
「その日、どうすればいいですか?」
「藤倉の屋敷の裏庭…ちょうど僕の部屋のすぐ傍なんだけど、そこまで来てもらえるかな?場所分かる?」
「は、はい。何となくは」
「もし分からなければ屋敷の者をつかまえて。僕の客が来るって話は通しておくから」
「何から何まですみません」
「ありがとうございます」
「じゃあ僕はこれで。朝の忙しい時間にごめんね」

それだけ言い残すと蒼珠は去って行った。



そして、満月の日の夜。
藤倉邸の裏庭には、蒼珠と朝陽と知花がそろっていた。
辺りに人の気配はない。あらかじめ蒼珠が人払いしたからだ。
蒼珠は懐より1枚の人型に切り取られた紙を取り出すと、唱え始めた。

「神代より仕えしものよ、我の声を聞き届けよ。月光照らし彼の者の声を聞かせ給え。我が声を彼の者へ届かせ給え」

すると人型の紙はひとりでに宙へと浮き、ぴたりと止まると淡く発光した。

「椛、聞こえるかい?」

蒼珠が紙に向かって話しかける。
しばらくは光が強まったり弱まったりするだけだったが、少しするとそこから声が聞こえた。


『・・・いさま、兄さま!』
「「椛!!」」

聞こえたのはは、まぎれもなくたった一月と少し前に別れたばかりの椛の声だった。

『その声は、知花!それに朝陽もいるんだね?』
「そうだよ、椛!わあ、本当に椛と話せてる!!!」
『兄さま、お忙しい中ありがとうございます』
「いやいや。椛こそ、この術、結構大変だろう?」
『うっ、まあ…でも上手くいって良かったです!!皆元気ですか?』
「ああ、変わりないよ。椛はどう?元気?」
『うん、私も元気にしてるよ…って言いたいところだけど、やっぱり寂しかったかな。
 ふふっ、まだ一月ぐらいなのにね。声聞けたら元気出たよ』
「椛ぃぃ!!いつでも帰ってきて良いんだからね?何なら隣町くらいなら私から会いに行けるからね!?」
『ありがと、知花。でも宿のお客さんがいるでしょ?いつか落ち着いたらまた町に行くと思うから、その時はよろしくね』
「うんっ、うんっ!!いつでも待ってる!!」
「そういえば、アイツはいないのか?」
『あいつって…紫藤さん?神術だから鬼の自分は影響与えちゃうかもって、離れたところにいるよ』
「その、上手くやってるのか?」
『……うん、多分。………ってもう!なんか恥ずかしいっ!!』
「元気そうで何よりだよ、椛」
「椛、何かあったら、ううん、何もなくてもまた手紙送ってね!」
『うん、そうする。ごめんね、あちこち移動しちゃうからそっちからは手紙出せないよね』
「気にするな。嫌なことあったら遠慮なく帰ってこいよ、椛!」
『くすっ、朝陽もありがとう』
「そろそろ限界かな?椛、あまり無理はしないでね。何処に居ても僕は椛の味方だからね」
『ありがとうございます、兄さま。兄さまも、病が治ったとはいえ無理しないでくださいね?』
「肝に銘じておくよ」
『じゃ、また。おやすみなさい』
「おやすみ」「おやすみ、椛」「椛、おやすみ!!」


椛の声が途切れると同時に、ふっと蒼珠が力を抜いた。
と同時に宙に浮いていた紙も光を失い、何もなかったようにひらひらと地上に舞い落ちた。

「ふぅ…」
「蒼珠さま、ありがとうございました。御無理させてしまいましたよね…大丈夫ですか?」
「ああ、心配させてしまったね。慣れない術を使ったから少し疲れただけだよ。大丈夫」
「ありがとうございました」
「さ、すっかり遅くなってしまったね。気をつけてね」
「はい。おやすみなさい」
「おやすみなさい、蒼珠さま」
「おやすみ、2人とも」

空に煌々と輝く満月。
一度それを見上げてから2人は藤倉邸を後にした。
蒼珠も空を一度見上げてから、屋敷の中へと入っていた。
裏庭には、何事もなかったかのようにただ静寂だけが広がっていた。
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